ビール片手にリリィさんに話しかける女がいた。
「リリィ、明日は逃走なんてしないでよね。
まぁ、いつも遊んでいる室内ドッグランでするんだから逃走なんてないか。」
「・・・・・。」
リリィさんは何も言わず、いつものように魅惑の目で女を見つめる。
そんなことはどうでもいいから、手に持ってるおつまみをくれと言わんばかりに。。。
そして、土曜日の夜。
その女とリリィさんは女の夫であるジュンさんとともにある場所に出かけた。
ここはいつもリリィさんがいつも遊んでいるドッグラン。
今宵、この場所で「ミニアジリティー大会」が行われるのである。
先日行われた河川敷でのアジリティーコース練習会。
リリィさんは、競技中に石垣をよじ登り、通りすがりの男子高校生に挨拶をするという結果に終わった。
今回は室内ドッグラン。逃げ場は無い。通りすがりの男子高校生も居ない。
言うなれば、袋のネズミ。逃げ場はない。
そう。女の指示どおりにハードルを跳べば良いのだ。
予選5種類のコースを跳び、タイムから順位を付ける。
そして上位5位までが決勝に進出できるのである。
当然、ハードル逆跳びや指示以外の障害物を跳んだ時点で失格である。
リリィさんの出番である。
1本目・2本目・3本目
→ タイムは無い。完走もしていない。当然ながら得点も無い。
またしてもやってしまったのである。
「暴走」を。「途中でトイレ」を。
さらに「華麗なる犬っぱしり」まで見せてくれたのである・・・・。
リリィは走る。ドッグラン内を自由自在に突っ走る。
誰がどう見ても、楽しそうである。
そんなリリィとは裏腹に1人頭を抱える女が居た。
なんでやねん!ドコへ行くねん!と繰り返し叫ぶ女が居た。
その光景を見て笑う、女の夫。
4本目。
女は大きな間違いを犯していたことに気がついた。
室内ドッグランである以上、逃走は無いと踏んでいた飼い主。
しかし、逃走はあくまで屋外への逃走が無いということだったのだ・・・。
このドッグランには隣に第2ドッグランがある。
普段はドッグランとして利用することはなく、クリッカーの個人レッスンなどに使われる場所である。
4本目の途中、何故かそこへの入るためのドアが開いていることに気がついたリリィさん。
「こりゃ、行かなくちゃ♪」
きっと、彼女の思考はこうなったに違いない。
一目散に、第2ドッグランに乱入したのである。
この日誰よりも大きかったであろう女の声がドッグランに響いた。
「どこ行くね〜ん!!!!!!」
リリィ捕獲後、女の目にはうっすらと涙が浮かんでいたことはいうまでもない。
女はあきらめた。そう、期待したのが間違いだったのだ。
蛙の子は蛙。トンビは鷹を生まなかったのだ。
どうにでもなれ〜と思った5本目。
『ギャンブラーアジリティー』と銘打った種目である。
跳ぶ順番も何も無い。逆走をしても問題ない。
障害物に得点がついていて、それをクリアすれば良いのである。
但し、1度得点を加算した障害物はその後何度跳んでも得点は加算されない。
リリィは跳ぶ。トンネルも難なくこなす。タイヤも横をすり抜けることなく跳ぶ。
跳ぶ順番なんてものは人間が勝手に決めたこと。
目の前にあるものを跳んでいく。それが本能なのだ。
終わってみたら・・・この種目で1位になったリリィさん。
『終わりよければすべてよし。』
この言葉がこれだけ合う瞬間はなかったかもしれない。
女と夫は手を取り合って愛娘の激走を喜びあっていた、そのとき・・・・
「予選5位 リリィちゃん、決勝進出です!」との声が!
どよめく会場。何が起こったかわからない女と夫。
この種目で1位になったリリィさん。
得点が大きく加算され、何と最下位から5位までジャンプアップしたのである。
まさにジャンピングチャンス成功なのである。
いまどきバラエティーでも行われないような、最後の問題クリアで10000点加算で逆転状態だったのである。
そう。アジリティーの神様が舞い降りた瞬間だった。
〜つづく〜
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室内アジリティーだったため、写真は1枚も撮影しておりません。
今回は私の下手な文章のみで乗り切ろうと思っています。
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