ナッティとお散歩していると様々な発見や出来事に出会う。僕からすると当たり前のいつもの道中でも、ナッティからすれば裸足で歩く地面は変化や危険がいっぱいであり、見上げた空はどんなに高く映るであろう。
そう、毎日が新たな冒険なのである。昨日と同じ道中でもナッティからすると毎日違う顔を持ち、時にはいばらであり、時には事件にでくわすこともしばしばである。
先日いつものようにお散歩中、年度末公園前のスナックなどが入るビル前でナッティは甲高い声で何かに向かい吠える、何かとは横たわる人間と自転車であった。
こけたと言うより地面に寝ながらチャリに乗ってる状態であり、上半身がおじい、下半身が車輪、弓矢を持たせると星座になりそうな状態であった。
行き交う人は見て見ぬフリ、おじいはうめき声ともとれる鼻歌を口ずさみ、助けを求めるわけでもなく、犬のように地面の冷たさで腹でも冷やしているようであった。
さすがに見てないフリはできず、吠えるナッティをしかりつけ、ガードレールにつなぎ声をかけようとした瞬間、タクシーの運転手が近寄り、「大丈夫かおじいちゃん、あれやったら家まで送ったろか」と声をかけた。
世の中捨てたもんじゃないと思いきや、しっかりとタクシーの後部座席のドアが開いており、親切強盗ならぬ親切営業であった。
おじいは「ワシは大丈夫、ほっといてくれ」と追い払い、タクシー運転手は苦笑いで獲物をあきらめ旅立っていった。
僕も立ち去ろうとすると、「にいちゃん悪いけど自転車とワシをおこしてくれ」と言われ、自転車をかかえ上げ、酒臭いおじいを階段に座らせてあげた。
「ありがとう、30分近くここで転んだままやって、にいちゃんだけや声かけようとしてくれたの」と言い放ち、「これは気持ちや」と5000YENを渡される。
僕がいいですと返そうとしても山の如し、5000ですよこれと言っても、犬と一緒にコーヒーを飲め、と拒絶された。
返しますよと半ば強引におじいの服のポッケに入れようとすると、俺の人生に口出しするな、と怒鳴られ「女に会いに行く、じゃますんな」とお水のビルへと消えていった。
僕は言葉を失い5000YENを握り締めナッティの散歩を続けた。もちろん僕は親切営業ではないが、正直うれしいものである。
これでこの5000YENを全額盲導犬協会に寄付しました、なんて事すれば美談だったのであろうが、普通に財布に入れ、なんか買ったわけでもなく気づけば消えていた。
せっかくの親切もあぶく銭で薄くなった。こんな機会は2度と無いだろうが、次こそは寄付でもと思う。
おやおや今度はビーグルがひっくり返ってますよ、5000YENで助けましょうか?