洋犬コロが語りはじめる小説です。家族を見守るコロの思いがあふれ出すストーリー。

November, 2010
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[ 連続小説 ] 第2回

 

 ケンサンとボクはバチッと目が合った

 

ゴロン ボクがケンサンの所へ買われてきたとき、結構難しい時期だったみたいなんです。ボクは生まれてまだ2週間ほどだから、なんにも分からないと思っているんでしょうけど、犬って不思議な生きもので、大きくなるにつれて小さなときに経験したことをはっきり認識することができる動物なんです。
 だから、その時事情が分からなくても、大人になって十分理解することができちゃうんです。すごいでしょ。


 まず、何が難しいかっていうと、ケンサンの家族はマンション住まいだったんです。ご存知の通り、マンションでは動物を買ってはいけないことになっていますよね。今でこそ、ペット可マンションなんて言うものが続々登場しているようですけど、その頃はとても無理っていう時代ですよ。
 ケンサンは犬を飼うことに反対でした。
「マンションで犬を飼うのはいけないんだろ。ルール違反をするのはよくないと思う」というケンサンに対して、お母さんは大胆です。
「だって、大高さんちだって、水野さんちだって飼ってるんだから大丈夫よ」と”だって”の嵐です。何が「だって」なのかボクでも理解に苦しみます。こんな論争がしばらく続いたみたいです。

 

 その頃、お兄ちゃんは中学2年生で、野球部員でした。少年野球の時代から豪速球のピッチャーで慣らしたお兄ちゃんでしたから、近所ではちょっとした有名人。ところが、中学に入って、少しテングになっていた鼻をへし折られ、野球部員からのイジメを受けていたんです。
 ケンサンはそのことが心配でたまりませんでした。何とか、お兄ちゃんの元気と自信を取り戻さなくてはなりません。必死でした。お兄ちゃんのためなら命だって投げ出せるほど、お兄ちゃんが好きでした。

 こんなケンサンのウイークポイントにつけ込んだのがお母さんです。「犬を飼えばあの子の気持ちも少しは安らぐかも知れないし、見るだけでいいから」などと巧みに顔見知りになったペットショップへケンサンを誘ったんです。


 ケンサンとボクがはじめて出会ったのがこの時でした。ボクはもう一匹の兄弟と小さなスチールの檻の中にいました。ケンサンとボクはバチッと目が合ったのです。衝撃的でした。「この人、ボクを買う」って思いましたもん。
「こいつだって、思ったね」、ケンサンものちにボクの話をするたびに、その時の出会いの瞬間を語っています。「運命的な感じ」なんていう少しキザな話に膨らんでしまっていますけど、ボクもケンサンとの出会いには、ボクの人生の進路が決まったような感じを持ちましたから。


 やおら、ケンサンはペットショップの店主に、「いくら?」って聞きました。とても不機嫌そうです。「8万円です」
 黙ったまま、ケンサンは財布の中にあるったけのお金を店主に払いました。ちょうど8万円です。店主は顔色をうかがうように「シーズーは人気犬種ですからねえ」などといいますが、ケンサンの表情はいよいよ険しくなりました。
「俺、命を金で買うのが嫌いなんだよ」
ぶっきらぼうにいうとケンサンはボクをタオルで包んでいち早く外に出たんです。まるで悪いことをしたときのような後ろめたさに襲われていたに違いありません。


 たぶん、ケンサンはお母さんにも腹を立てていたんだと思います。
 ルール違反をさせられてしまったこと、お兄ちゃんという最愛の息子の悲しみを自分の欲望を満たす道具に使われたと思ったこと、そして、ボクの可愛らしさに負けてしまったこと、これは少し言い過ぎかも知れないけど、ケンサンは言い知れない腹立たしさでいっぱいだったに違いないんだ。


 というわけで、ボクはこの家の一員になったというわけなんだけど、所詮、ボクは日陰の身です。居てはいけないマンションにいるわけですから、散歩なんかもはじめのうちは人目を忍んで暗くなってから隣りの小学校の校庭まで行ったもんです。


 でも、ボクは家族のみんなから大事にされたし、すごく可愛がって貰ったことを考えれば、幸せものだといえるんじゃないでしょうか。
 中でも、ボクとお兄ちゃんとの絆は特別強いものだと思います。結果的には、お母さんの目論見通りになったという感じなんでしょうね。お兄ちゃんは、野球部でイジメにあったことや苦しいこと、つらいこと、そして悔しいことの全てをボクに話してくれるんです。
 そんなあって笑うかも知れないけど、ここだけの話、実はお兄ちゃんは、犬語が喋れるんです。もちろん、ワンとかキャンとかいう音の出る言葉ではありません。


 ボクの頭にお兄ちゃんの頭をくっつけてしばらくジッとしていると、お兄ちゃんの声が聞こえてくるんです。ほとんどの場合、ボクが寝ているときに話しかけてくるんです。ボクも真剣に話を聞き、脳味噌を搾り出すようにしてお兄ちゃんの悲しみや苦しみをやっつけるパワーを出すんです。
 長いときには一時間以上も、そうやっているときもありました。そのうち、お兄ちゃんも気持ちがよくなって眠ってしまうことだってありました。
 ボクはお兄ちゃんの苦しみをやっつけたとき、すごくうれしい気持ちになれるんです。ボクはお兄ちゃんのために役立っているという充実感に満たされるんです。


 お兄ちゃんもボクには特別優しくしてくれました。時間が許す限り散歩へつれていってくれるし、気持ちのいい原っぱや思いっきり走れる広いグランドへもよく連れていってくれました。ボールを投げて遊んだり、ビデオカメラでボクの颯爽とした姿を撮ってくれたりもしたんです。
 ボク、そんなお兄ちゃん、だぁい好き。お兄ちゃんとボクだけの長いつきあいはこうして始まったのです。


 ところで、犬は必ず順位をつけるっていうじゃないですか。それって半分当たってるけど、半分間違ってるな、ボクに言わせれば。
 人間って、おかしな生きものだと思うんだ。なんでもこうだああだと決めつけてしまいたがるんだもん。犬になって、そのあとまた人間なった人なんていないじゃん。なのに、「犬は必ず、順位をつけるもんだ」なんていうんだもの。


 確かに、犬だけの世界の中では、順位を決めて生活するっていう習慣はあるよね。そのほうが、いさかいが少なく済むからね。犬って、もしかしたら、人間なんかよりずっと賢い生き物なのかもしれないよ。
 だからって、人間と一緒に暮らすようになってからは、無理矢理に順位をつけることもないっていうことが分かったんだ。家族とは誰とでも仲良くやっていけばいいって、たいていの犬たちは考えるようになったんだよ。 家族に牙をむく犬っていないでしょ、いるとすればそれはバカ犬だね、家族からスポイルされる原因を自分から作っちゃってるんだから。


 というわけで、ボクとお兄ちゃんはまったく”五分の兄弟分”っていうところかな。なんでも気持ちが分かり合えるっていう感じだよね。
 そんなお兄ちゃんが、高校に入って、また野球部にはいったんだ。すごいんだよぉ、一年生の夏にはエースナンバーの背番号1をつけたんだから。

 

つづく。

 

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