洋犬コロが語りはじめる小説です。家族を見守るコロの思いがあふれ出すストーリー。

November, 2010
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[ 連続小説 ] 第8回

 

 はらはらどきどき

 

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 動機がどうあれ、そもそもボクに白羽の矢を立てて、家族の一員にしてくれたのはお母さんです。だから、お母さんの話をきちんとしておかなくちゃいけないと思うんです。
 ボクにはとっても優しい人です。食事の世話はもちろん、ボクの大好きなお風呂にもちゃんと入れてくれるし、あまり好きじゃないけど散髪屋さんにもつれていってくれるし、もちろん楽しみな散歩にもつれてってくれるしね。
 最初の頃は、ボクも小さかったから、お母さんの言いなりで…。
 ただ、お母さん、犬を飼うのがはじめてだったみたいで、何から何まで、お友達の家の流儀を丸ごと受け入れてきちゃうんで、少し窮屈な感じがしたんだけど。
 つまり、犬にだって、個性というものがあるっていうことをあまり知らなかったみたい。犬種も違えば、性格も違うんです。同じ種類の犬でも性格は全然違うんですよ。
 どうも、そのあたりがよくわかんなかったみたいで、お母さんの友達の家で飼われているプードルが”犬の教科書”だったんだ。ボクにはこれといって困ったことはなかったんだけど、お母さんの口癖の「犬っていうのはね」という言い方が、あんまり好きになれなかったな。
 お母さんとボクは、一番長い時間一緒にいるわけだから、ボクとしても彼女と仲良くやっていかなくてはなりません。もしかすると、彼女のことを家族の中で一番良く知っているのは、ボクなんじゃないかって思っているくらいなんです。
 よくいえば、意欲的。悪くいえば飽きっぽい人っていうのかなぁ。けっこう、何にでも興味を持っちゃう。それもその時一番仲良くしている友達が夢中になっていることに一緒にハマっちゃう。
 ずっと前、ケンサンが「一人っ子だから、反発心が無さ過ぎる」って独り言をいってたのを思い出します。
 友達に影響されやすい性格っていうんでしょうか。だから、お母さんが今つきあっている友達が、どんな趣味の人か、どんな仕事をしている人かなんていうのが、みんなにすぐわかっちゃう。
 分かり易く言っちゃえば、このボク。どうしても犬がほしかったんでけど、それもその時一番お母さんが仲良くしていた友人の家で犬を飼っていたからなんです。
 ほしいとなると、矢も盾もいられないタチなんでしょうね。ケンサンを半ば無理矢理にペットショップへ誘導して、ボクと対面させたっていうわけ。
 ケンサンやお兄ちゃんたちの話を総合すると、お母さんはずいぶんいろんなことをやってきたみたい。着物の着付け教室、自動車教習所、油絵なんかをやってきたらしいんですけど、子供に手がかからなくなってからは、少し欲が出てきちゃった。
 つまり、趣味と実益っていうんですか、そちらの方面へ走ってしまう傾向が強くなっちゃったんですね。
 で、新聞の折り込み広告の代理店で営業のパート。はっきりいって、これは普通の主婦のアルバイトではなかなか難しい仕事なんだって、ケンサンがぼやいていたことがあります。
 もともとまじめな人だから、仕事となると夢中に頑張っちゃう。広告の営業だから、昼間家にいてできる仕事じゃないわけです。けっこう、午前中から出かけちゃう日が多くなりました、この頃は。
 夕方、慌てふためいて帰ってきてから食事の支度ですから、それは大変です。時にはお兄ちゃんやタクちゃんのほうが早く帰ってきていることもあって、そんなときはもう大騒ぎ。
 「ハラへってんだよ。なにしてんの」
 「あ、ごめんね、急いでしたくするからね」
 このていどのやりとりで済んでいるうちはいいんだけど、時にはお母さんのハラの虫の居所がよくないことだってあるわけで。
 「もう、ハラペコだよ。毎日なにしてんのよぉ」
 「お母さんだって、頑張ってやってるじゃないの。文句ばっかり言ってないで、お腹が空いたら何か食べておけばいいじゃない」
 これで、大喧嘩になっちゃうケース、結構増えちゃいました。この頃、我が家は決してお母さんが、仕事しなくてはやっていけないほど貧しいものではなかったと思います。
 お母さんは、長い間、子育てと家事仕事に縛られていたことから解放されたかったんだと思うんです。
 スーパーやコンビニのレジのパートっていうんじゃなくて、どこかアカデミカルなというんですか、知的な感じのする仕事に就きたかったんでしょうね。
 要するに、「お金じゃないの」というスタイルが見せられる仕事を好んで探したんだと思うんです。
 ボク、よく分からないんですけど、この頃のお母さんの稼ぎは家計を助けるほどのものではなかったと思うんです。その割りに、家族への負担のシワ寄せが増えたことだけは確かだったようです。
 どう頑張ったって、外へ出る仕事を抱えたお母さんが、家の仕事を完ぺきにやりこなすなんていうのは無理なんです。
 はじめのうちは、みんなも好意的にお母さんを見ていたんですけど、それがだんだん当たり前のようになってしまうと、何かで意見が衝突したときは、必ずそのことが出てきます。
 「家のこと、ちゃんとやれよな。メシの支度くらいきちんとやるのは最低限の義務じゃないの」などといった厳しい批判にさらされることも多くなっていきました。

 

つづく。

 

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