親おや・・・
その人は、いつもずいぶん派手な洋服をきちんと着て、いかにも仕事をしていますっていう感じの奥さんでした。ボクも何度かあっています。
その人の家では、奥さんがこの下着販売の代理店として会社を設立し、自分が社長におさまり、ご主人が専務となって本格的にやっているんだそうです。
お母さんが、ケンサンにその人の話をするときは、とてもうらやましそうにいうんです。優しいご主人が奥さんの仕事をサポートしていて、とても素晴らしいなんていうんですから、ケンサンとしてもムッとしちゃうわけですよ。
お母さんって、すごく素直で、結構他人のいうことを受け入れちゃうタイプ。その反面、身内のいうことにあまり耳を傾けようとしないところがあると思うんです。要するに、外ヅラが滅法よくて、どちらかといえば、内ヅラがよくないっていう感じかな。
影響を受けてきゃちゃうんです、憧れたり、付き合っている人に。
ひところ、ケンサンに一緒に下着販売の仕事を手伝ってほしいなんていってたことがありました。そばで聞いてたボクでさえ、びっくりしましたよ。
ケンサンっていう人は、そういうことが大嫌いな人なんです。自分の仕事を家に持ち込まない主義。公私を混同しない頑固なまでの人なんですから。
お母さんの要求はあまりにもケンサンの人柄を無視した大胆なものでしたね。
お母さんって、こういうところがあるんです。優しいし、穏やかだし、外での愛嬌もあるし、努力家だし、料理は上手だし、ボクの世話もよくしてくれる人。
なのに、時々、余りにも大胆で、余りにも聞き分けのない要求をしちゃったり、それを実現させるために誰にも相談しないで行動を起こしちゃったりすることがあるんです。
こういうとき、ケンサンは猛烈に怒ったり、時間をかけて説得したり、あの手この手で、それを止めさせようと試みるんですけど、結局はお母さんの勝ち。絶対にケンサンの言う通りにはしない。
お兄ちゃんやタクちゃんが、中学生くらいになると、お母さん、もう理屈じゃ勝てないことって起きてくるじゃないですか。つまり、理屈ではお兄ちゃんたちのほうが筋が通っているっていうことがあるわけです。それでも言い合いが続いてしまうと、最後にお母さんのせりふがすごい。
「子供のくせに生意気なことばかりいって、親に向かっていうことじゃないでしょ」
「じゃあ、親らしくしろよ」
お兄ちゃんたちも負けてはいません。
これは親が子供を叱っているなんていうのではなくて、レベルの低い親子げんかでしかありません。
お母さんはどちらかというと、お兄ちゃんよりも、タクちゃんのほうが好きだったみたいです。
ボクが見たところ、お兄ちゃんとケンサンの仲があまりにも緊密だったから、お母さんの入り込む隙がなかったんだろうと思うんですよ。
その分、タクちゃんへ重心がかかっちゃったんでしょう。
高校生になってからは、お兄ちゃんの学校へお母さんが出かけていったことは一度もありません。ところが、タクちゃんの学校へはよく出かけていってたようですから。父母会なんかに出かけていっては、すぐに友達ができちゃうっていうのが、お母さんの特技。
サッカー部だったタクちゃんの試合はたいてい見に行ってたみたいです。
もちろん、ケンサンだってタクちゃんの試合を見に行くこともありましたけど、ケンサンはあまりサッカーを知らないみたいで、お兄ちゃんの野球に比べると、やっぱりテンションが低いっていう感じは否定できません。 ボクにでさえ、そう思えるんですから、タクちゃん本人にとっても、ケンサンに対する不満はあったと思います。
下着販売の仕事を初めて5年くらいが過ぎた頃だったと思います。ケンサンが意を決して説得したことがあるんです。仕事をするなというんじゃないんだと前置きして、お母さんの仕事の仕方についてクレームをつけたんです。
つづく。
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