彼(彼女)と出逢ったのは、今年の冬だったか。
車の前にひょっこりと飛び出した彼を見て、私は慌ててブレーキを踏んだ。
そして、息を呑んだ。
彼の足は三本・・・ある筈の前足が一本無かった。
生まれつき無いのか。或いは、事故で失ったのか。
汚れた身体、艶の無い毛。爛れた耳。
やせ細った身体。
誰が見ても、彼に主がいないことを直ぐに理解できるだろう。
その後、彼とは数回出逢った。
三本の足で器用に、ゆっくりと歩く。
そして彼はいつも湖の底を浚うように、ガラスを通して私の目を見詰め返してくる。
なにを、言いたいのか。
なにを、求めているのか。
何もできずにいる事を歯痒く思う私を、逆に哀れんでいるようにも見えた。
暑い夏。
彼を見る事は無かった。
もしかしたら、この暑さを乗り越えられなかったのかも知れないと思っていた。
そんな彼が今朝、思いがけず、ふらり、と私の車の前に身体を躍らせた。
痩せ細っていた身体は更に痩せて、爛れていた耳も悪化しているようだった。
ああ、生きていてくれた・・・!
嬉しさと切なさで胸が一杯だった。
そして、相変わらず彼のために何もできない自分を恥じた。
主の元、愛される犬たちと彼と、どれほどの差があるというのか。
同じ犬として生まれ、その命に違いは無いと言うのに。
今宵、彼は何処でこの嵐を凌ぐのか。
どうか、彼をこの嵐からお守りください。
そして、こんな子達が、これ以上増えないことを心から願います。
今、嵐の只中にいる君を想います。
私は一体、君に何をしてあげられるんだろう。
何ができるんだろう・・・?