東京での仕事が一段落し、地元に舞い戻って来たボス。最も喜んでいるのは犬の太郎だ。朝晩の散歩をきっちりしてくれるからね。と思いきや、下宿人の一人がつぶやく。
「太郎が、笑っていない・・」
{なぬ?}
「私が散歩させていた頃は、笑っていたのに」
{犬が笑う?喜んでないとでもいうのかね。規則正しい散歩が出来てるのに?}
「そう。義務的な散歩だと感じるから、気持ちが弾んでないのだと思う」
{そういえば・・・。ちと暗いなあ。年寄りになったし、疲れてんだろうか}
ーーーそこへ、もう一人の下宿人が話しに加わる。−−−
[太郎は、俺が散歩させる時が一番嬉しげだ。滅多に行ってないけど]
{そう思うなら、散歩に行ったり、面倒を見なさいよ!}
[ガッコーにバイトに、サイトの営業に忙しいからねえ]
「ちょっと〜。太郎は私と行くとスキップするくらいだから、私が一番好きだと思う」
{いや、アタシだと思うよ。散歩コースが面白いところを選んでるからね}
皆、勝手なことばかり言ってる。散歩役から逃れられたのを感謝しなければいけないのに。見ていると、太郎はやはりボスに対して遠慮をしているように思う。これまでは、
(もう、待ちくたびれた。はやく連れて行ってや。早く早く)と声も大きく、やんちゃだったが、(ご主人様、お待ち申しておりました。スミマセンが、あの辺まで行ってもらえますか?)と、キュンキュン、猫いや犬撫で声で甘えるのだ。